第1回高専起業家サミット・プラチナスポンサーインタビュー【3D Printing Corporation】 企業一覧

第1回高専起業家サミット
PLATINUM SPONSOR INTERVIEW

世界で注目を集める3Dプリンティング技術。日本発の企業が目指す技術革新とスタートアップ支援について

3D Printing Corporation

製造業

取材させていただいた方

ジェレミー・ノップさん

所属・役職
デュアルユース技術 部長

アジア・太平洋地域の先駆者!
3Dプリンティング技術で目指す製造業の革命的変革

ジェレミーさんのご経歴を教えてください。

アメリカのオハイオ州出身で、約7年前に日本に来ました。高校でマニュファクチュアリングプログラムという製造に関する勉強をした後、シンクレア大学(Sinclair Community College)とライト州立大学(Wright State University)で、非破壊検査を専門とする工学の博士号と、統計学と電気工学の2つの修士号を取得しています。

大学を卒業後は、米空軍研究所(Air Force Research Laboratory: AFRL)で航空安全の研究をしていました。具体的には、飛行機の飛行における正確性など、非破壊検査を使った統計的信頼性についての研究です。仕事で研究をする過程で日本の研究者と知り合う機会が増え、そこで高専の存在を知りました。

2016年からは空軍科学研究局(Air Force Office of Scientific Research: AFOSR)という研究所に移ってから、実際に日本で仕事をする機会が増えました。2023年8月までは同局に在籍していましたが、9月に家族とともに日本へ移住。現在は縁があって日本を拠点に仕事をする機会が増えました。2023年の8月までは同局に在籍していたのですが、9月以降は家族と一緒に日本へ移住して、現在は3D Printing Corporation(以下「3DPC」)に勤めています。

3DPCの事業内容を教えてください。

2016年に日本で設立された3DPCは、金属などを削って造形する従来の製造方法ではなく、材料を積層して製品を造形する技術――Additive Manufacturing(以下「AM」)および3Dプリンティング技術を用いた設計・開発や受託製造などを主な事業としています。

3Dプリントされた部品

AM技術は、従来の製造方法では不可能だった多くの製品を製造可能にする方法で、世界的に注目されています。現在、AM技術は全世界の製造業の市場シェア1%にも満たない状況ですが、3DPCがアジア・太平洋地域で常にこの技術の先駆者でいれるよう取り組んでいます。

3DPCにある大型金属3Dプリンター「Meltio Robot Cell」(奥)では、手前の金属の造形物のように、大きくて複雑な形状を造形できます。

現在の主なクライアントとしては、主に教育機関や材料メーカー、建設、自動車、航空宇宙などの業界が中心です。また、国内外を問わず政府・製造業・教育機関と多様なパートナーシップを持ち、共同研究も積極的に行っています。

最近は「TAIGA」という、より専門的なオンデマンド部品を開発・生産するための機能を備えた、デジタルプラットフォームを開発しました。AIの学習データおよび経験が豊富なエンジニアや技術者の知識を利用して顧客満足度を最大限に高め、製品の品質向上や、手作業で行っていたルーティーンタスクを自動化することで、製造業の革命的な変革に貢献していきます。

これに加え、SDGsにフォーカスを置き、これまでよりも簡単にリサイクル材料を用いた製品を製造可能にする技術の確立にも取り組んでいます。

ジェレミーさんの業務内容を教えてください。

私の主な仕事内容は、航空業界の発展のための3Dプリンティング技術の導入方法を考えることと、私の専門分野の研究を取り入れながら、経済安全保障についても取り組んでいます。

3DPCが保有する登録証など。1番手前の紙面の登録証は、「3Dプリンティング技術による航空機、ロケット用部品の製造」の品質マネジメントシステムがISOに適合していることを証したもの

製造において物資調達は様々なパーツが必要となり、有事にそなえてリードタイムを早く、より安価に提供するためのデジタル製造プラットフォームは必要不可欠です。以前、新型コロナウイルスのパンデミックが起こった際、輸出入の経路が制限されました。こうしたときのために、日本の中で自給自足できるような製造手段を確保しておかないといけないのです。

3Dプリンティング技術にAIを導入することで可能になること

最近発表された「TAIGA」は、従来の3Dプリンターとどう違うんでしょうか。

今はまだ試験段階ですが、「TAIGA」は買い手と作り手をつなぎ、設計から納品まで、安全かつスムーズにものづくりができるワンストップサービスです。ただ部品を発注するだけではありません。経験が豊富なエンジニアから技術者、深層学習AIからなるチームが、射出成形や3Dプリンティングなどの技術的な知識、そして最先端の設計や製造に携わってきた実社会の専門知識などをもとに、お客様の代わりに最適な設計と製造プランをご提案します。

専門知識を有した当社のオペレーターと共にプロジェクトを管理し、常にチーム全員で工程や品質を確認しながら製造できるため、お客様のアイデアを最大限に形にすることができます。「TAIGA」は、プロジェクトの包括的な洞察を提供することで、部品にさらなる付加価値を与えます。

企業との共同研究はどういったことを行われていますか。

共同研究の内容はお伝えできないのですが、現在は愛媛大学と共同研究プロジェクトを進めています。医療業界の会社とコルセットを作るプロジェクトや、自動車業界のリサーチセンターと研究を行うなど、様々な共同研究を進めています。

社内ではみなさん英語で仕事をされているんですか。

チームによりますが、3DPCのCEOにあたるアレックスがアメリカ人のため、アレックスと密に仕事をする部門は英語を使います。特に私たちが所属しているデュアルユーステクノロジー技術部門と、マーケティング部門ですね。例えば、投資家に関する話をするときは英語を使っています。一方で、プロダクションチーム(3Dプリンターで部品製造を行うチーム)は基本的に日本語で仕事をしています。

科学に献身する、果敢な挑戦者を後押ししたい

高専に注目したきっかけを教えてください。

高専に初めて足を踏み入れたのは8年前、熊本高専に行ったときです。それ以前から高専のことは知っていましたが、若いうちから専門的な技術を存分に学ぶことができる環境に感銘を受けました。先生は非常に科学に対して献身的ですし、学生たちはまだ若いにもかかわらず果敢に問題解決に挑む姿勢が印象的でした。同世代のほかの学生と比べても、高専生からは強い情熱を感じました。

また、すでに退職されているのですが、以前CADエンジニアとして3年程3DPCに勤めた方が高専の卒業生でした。当時はCADエンジニアとして主にR&D案件で設計を担当していましたが、ものづくりの工程を最初から最後まで理解しているからこそ常に最適な設計を提供し、さらにプロジェクトの効率的な進め方をエンジニアにアドバイスするという役割も担っていました。

3DPCの工場内に飾られている、3Dプリンティング技術を用いてつくられた造形物

高専の学生と一緒にものづくりの未来を変えていきたいという思いがあり、卒業前に一緒に行える研究プロジェクトやインターンシップなどを実施していきたいと考えています。また、今後は高専生や教員の方のニーズを踏まえたうえで、最新の3Dプリンティング技術を生かした高専の研究設備への技術提供なども視野に入れています。

高専生へのスタートアップ支援への取り組みをお聞かせください。

3DPCがスタートアップであることから、3DPCの代表アレックスや私はほかのスタートアップへの支援も積極的に行っていきたいと考えています。私たちのパートナーにも起業家やスタートアップは多いです。JAXAや経済産業省、文部科学省などの資金提供機関に対して、スタートアップや起業家と共に会議やワークショップ、共同提案を行い、このエコシステムで皆が利益を得られるための協業を促進しています。

3DPCの工場内を案内中のジェレミーさん。紹介しているのはPhotocentricの光造形方式(LCD)3Dプリンター

最近では、ドローン製造を専門とするスタートアップ企業をサポートしました。起業した方は30歳と若く、製造分野に関しての経験は浅いです。また、宇宙業界のスタートアップ企業とも何社か取引があります。

加えて、3DPCでは外資系のスタートアップ企業が立ち上げた業務管理ツールを導入しています。さらに、3DPCが総代理店契約をしている3Dプリンターのメーカーのいくつかもスタートアップです。このように様々な形で3DPCはスタートアップ企業と関係を持っています。

3DPCの工場では、最先端技術が搭載された10種類以上の3Dプリンターが設置されています。

そして、スタートアップ企業へのサポートはもちろん、高専生の採用についても進めていく予定です。高専生および起業を考えている方には、何事にも果敢に挑戦してほしいと思っており、特に意欲的な学生に対しては積極的に支援していきたいです。

採用も進めていかれるということで、高専生に期待していることを教えてください。

AMとDXに対する姿勢と情熱です。3DPCは小規模な会社のため、大企業と比べて裁量をもって働くことができますが、そこに責任を持つことも必要です。責任を持つとは、プロジェクト管理に関連する様々なタスクに対し意欲を持って行動することを意味します。3DPCの企業価値でもある「大胆に」「誰よりも速く」「責任感を持って」を心がけて仕事に挑んでほしいです。

一方で、一つ一つの仕事を楽しみながら行うことも大切です。仕事に楽しさがないと、いつかは燃え尽きてしまい、仕事へのモチベーションも下がるからです。3DPCはみんなが楽しみながら仕事ができるように、お互いに協力し仕事をしています。

最後に、高専生へのメッセージをお願いします。

成績や学位も大切ですが、最も重要なのは学ぶことです。自分に最適なメンターを慎重に選び、常に質問することを恐れないでください。AMやDXに興味があるなら、常に世界情勢に目を向け、関心のある分野を追求してください。また、実際にその関心分野に深く携わることになったとき、学んだことを活かせるよう一日一日を大切に過ごしてください。

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このインタビューは『第1回高専起業家サミット』
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高専起業家サミットとは?

高専生の積極的な起業を応援するべく、高専機構と月刊高専が主体となりスタートした『高専スタートアップ支援プロジェクト』の取組の一環として企画されたイベントです。
2024年3月11日に第1回を開催。全国の高専からエントリーした中より選ばれた60チームが一堂に会し、ビジネスプランの発表と交流会を行いました。
高専スタートアップ支援プロジェクトは、今後も中長期的に高専起業家をサポートできるプラットフォームづくりを目指し、活動を続けていきます。

高専起業家サミット公式サイト