第1回高専起業家サミット・プラチナスポンサーインタビュー【本田技研工業】 企業一覧

第1回高専起業家サミット
PLATINUM SPONSOR INTERVIEW

“夢の力”で新しい価値を創造。熱い想いを持った人を支援するHondaのプログラム「IGNITION」について

本田技研工業

製造業

取材させていただいた方

中原 大輔さん

所属・役職
コーポレート戦略本部 コーポレートデベロップメント統括部 コーポレートベンチャリング部 イグニッション推進課 課長

原点にあるのは「社会課題を解決したい」という想い

御社の強みについて教えてください。

Hondaの強みはカルチャーです。Hondaはチャレンジすることに対して多くのサポート体制があります。その中でも2017年からスタートした「IGNITION」というプログラムは、社員の夢への挑戦を会社として応援するものです。年に1度、手上げ式で社員のアイデアを募集します。

IGNITIONは「アイデアはあるが事業化までの道筋が見えない」「実現するためのお金や知識がない」といった方のためのいわば自動車教習所みたいなもので、起業前から起業後までを費用含めてサポートする仕組みが整っています。個人の夢の実現によって社員が成長し、社会課題を解決する——これがIGNITIONとして期待しているところです。

IGNITIONプログラムが始まった経緯を教えてください。

Hondaのスローガンは「The Power of Dreams」です。創業以来、夢の力で新しい価値を創出し続けてきました。その原点にあるのは、創業者である本田宗一郎の「社会や人の役に立ちたい=社会課題を解決したい」という想いです。

私たちはグローバルに事業を展開しているので、さまざまな価値観を持った人と交わることも多いです。その中で刺激を受け、多様な知の融合から独創的でユニークなアイデアが生まれるのではないかと考えています。

中原さんが座っているのは、Hondaが開発した着座型ハンズフリーパーソナルモビリティ「UNI-ONE」。体重移動によって歩いているかのように自然な移動ができるため、従来の歩行や車いすでの移動を超えた可能性を秘めています。

2023年11月からは、社外の方の応募も可能になりました。

プログラムの目的は社会課題の解決ですので、社員に限らず、熱い想いを持ってチャレンジしたいと考えている社外の方もご支援しようと思ったからです。また、社外の方のアイデアと私たちの技術や知見を組み合わせることで、さらに新しい価値創造につながることも期待しています。

アイデアを応募したあとの流れについて、詳しく教えてください。

まずは書類選考・WEB面談を行った後に一次審査を行います。社会課題の解決に向けたアイデアにどれだけ共感できるのか、事業マーケットは大きいのかといった「課題の解像度」や「課題の大きさ」をよく見るようにしていますね。そして、それに対するソリューションのユニークさも注目しています。

一次審査を通過した方は、二次審査までの約半年間、デザイナー、事業インキュベーター、(社外公募の場合のみ)エンジニアによる専門チームがサポートし、新事業開発を進めます。事業インキュベーターとは事業開発の進め方を支援する役割を持つ人のことです。具体的には事業計画の作り方や、プライシング、マーケティングに関するところをサポートします。

デザイナーがチームにいるのは大きなポイントだと思います。提案する側はどうしても「自分がやりたいこと」を前面に出しがちですが、事業化するには、その自分のアイデアが相手に伝わらないと意味がありませんし、評価者や投資家が何を希望しているのかという客観的視点も必要です。そこで、デザイナーがアドバイスしながら、デザインの力で「伝えたいこと」を明らかにするのです。これがあるのとないのとでは、相手への伝わり方がまったく違うと感じています。

社内でのIGNITIONでは二次審査・CV審議会を通過すれば、「起業」もしくは「社内事業化」を選択することになります。社外公募の場合は、「Hondaからの出資を受ける」や「Hondaと連携する」などの出口を加えて準備しています。今回が初めての試みですので、実施しながらPDCAを回して、都度改善していきたいですね。

中原さんが乗っている電動三輪マイクロモビリティ「Striemo」は、IGNITIONプログラムを経て起業した株式会社ストリーモによるもの。シームレスな操縦性や、転びづらく安定した走行が特徴で、2023年より国内販売がスタートしました。

社内でスタートした当初からIGNITIONプログラムを変えた部分はありますか。

当初のIGNITIONの出口は「社内事業化」しかありませんでした。社内事業化となると、大きい企業なので様々な手続きや部門間調整を行う必要があり、どうしても時間がかかります。そのため、スピーディに展開できる「起業」という出口も用意することにしました。

また、今は個人での応募にしていますが、当初は3~4人のチームでの応募にしていました。理由はチームだとどうしてもメンバーが同質化してしまい、本来ベストな組み合わせであるCEO(最高経営責任者)・CFO(最高財務責任者)・CTO(最高技術責任者)が、エンジニアが多い当社の場合、3人ともCTOになってしまうのです。これは起業する際に最適ではないと考え、起業の出口を追加した時に個人での応募に変更しました。

IGNITION初の社内事業化を果たしたのは高専卒業生

高専を卒業した社員は、どのように活躍していますか。

Hondaは、チャレンジ精神旺盛な人が活躍できる場です。高専の卒業生は工学の知識をベースに、さまざまな専門的知見を持っているため、積極的な人が多いと感じます。事実、IGNITIONプログラムで初めて社内事業化に成功した社員の野村真成さんは、岐阜高専出身です。

野村さんは、学生時代に片道約10kmの距離を自転車で通学していた経験から「通学をもっと楽にしたい」という想いをずっと抱えていて、2018年にIGNITIONプログラムに応募し、後付けで自分の自転車を電動化できる「SmaChari(スマチャリ)」という新しいサービスを立ち上げました。

IGNITIONのアイデアから新事業化されたSmaChariのイメージ

野村さんは自分自身の想いだけではなく、全国を回ってたくさんの方にヒアリングをしていたので、課題の解像度が高かったことが深く印象に残っています。

野村さんが、乗り越えるハードルが多い「社内事業化」を選んだのはなぜでしょうか。

そもそも、SmaChariはIGNITION第2期に応募されたもので、当時は出口が「社内事業化」しかありませんでした。そこで、後に「起業」の選択肢ができた際に、改めて野村さんにどちらの選択肢にするか決めてもらいました。

野村さんは相当悩んでいましたが、「そのまま社内事業化で進める」という決断をしました。自転車を利用するお客さまは、安全や安心を非常に重視します。その上では、Hondaが長年築き上げてきた安全性への信頼や実績がベースにあったほうが、サービスの発展につながるとお客様の立場に立って判断をしました。

中原さんから見て、野村さんはどんな方ですか。

SmaChariはIGNITION第2期ということもあり、個人ではなく4人のチームで事業化しましたが、野村さんが事業責任者としてみんなを引っ張っていたのが印象に残っています。また、社内事業化は本当に苦難が多いので、野村さんは自分のアイデアを信じる力や、忍耐力・突破力が高い人だと感じました。

自転車に電動アシストを後付けでつけるには法規上の規制の壁があり、彼は自ら警察署に出向いて説明し、いくつものハードルを乗り越えていきました。彼の持ち前の根性と諦めない心でチャレンジし続け、実用化までこぎつけたのは本当に素晴らしいことだと思います。

IGNITIONに限らず、Hondaでは内発的動機で活動するカルチャーがあります。会社としての目標の実現に向けて、各社員の自発性に任せられている部分も多いので、内発的動機によって推進することが困難な道を突破する原動力になります。IGNITIONの応募が手上げ式なのも、内発的動機を重視しているからです。実はイグニッション推進課も、手上げ式で集められたメンバーで構成されています。Hondaの文化ですね。

失敗を恐れないためのグロースマインドセット

高専生がIGNITIONプログラムに応募する上で、アドバイスはありますか。

アイデアがあっても、その原理証明含め、事業化を検討する初期のフェーズではかなりの労力を必要とします。IGNITIONプログラムはまさにそのタイミングでの支援を行っています。

私が2024年3月に行われた【第1回 高専起業家サミット】に参加して皆様の提案を聞いていた際も、高専生とIGNITIONプログラムは非常に相性が良いのではないかと感じました。

皆様にアドバイスすることがあるとすれば、事業化を進めていくと様々なことが起こります。ときには失敗することだってあります。そんな時には原点に戻って、「自分は何をやりたかったのか」を考えると良いと思います。そのためには事業をする目的、つまり「ミッション(使命)」「ビジョン(理想の姿)」「バリュー(行動指針)」を最初にきちんと言語化しておくことが大切だと考えています。

最後に、高専生にメッセージをお願いします。

我々の部門ではグロースマインドセットを心がけています。グロースマインドセットとは、「高い目標を持ち」「とりあえずやってみて」「(結果ではなく)成長に重きを置き」「他者から学ぶ」というものです。グロースマインドセットにより、「常に積極的に、そして失敗を恐れずチャレンジする精神」が身についてくると信じています。

新事業の場合、「似たような他者」を見つけるのは難しいと思うかもしれませんが、同業である必要はありません。例えば、成功している企業の事例を分析してみるのも「他者から学ぶ」ですし、極端に言うと顧客にヒアリングするのも「他者から学ぶ」に当たると思います。自分の仮説を周りの意見を取り入れて改善していくと、もっと良くなるはずです。

最後に、私たちの行動指針は、「早く動いて早く失敗して早く改善する」です。とにかく動き、失敗して改善する——成功の確度をあげるためにはこれしかありません。ぜひ、皆様もチャレンジ精神を忘れずに行動してください。

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このインタビューは『第1回高専起業家サミット』
プラチナスポンサーの提供でお届けします。

高専起業家サミットとは?

高専生の積極的な起業を応援するべく、高専機構と月刊高専が主体となりスタートした『高専スタートアップ支援プロジェクト』の取組の一環として企画されたイベントです。
2024年3月11日に第1回を開催。全国の高専からエントリーした中より選ばれた60チームが一堂に会し、ビジネスプランの発表と交流会を行いました。
高専スタートアップ支援プロジェクトは、今後も中長期的に高専起業家をサポートできるプラットフォームづくりを目指し、活動を続けていきます。

高専起業家サミット公式サイト