第1回高専起業家サミット・プラチナスポンサーインタビュー【三菱UFJ銀行】 企業一覧

第1回高専起業家サミット
PLATINUM SPONSOR INTERVIEW

新規事業創出で社内カルチャーを変革/イメージしにくい「銀行のIT部門の仕事」について

三菱UFJ銀行

金融業

新規事業創出で社内カルチャーを変革

取材させていただいた方

仲本 隆助さん

所属
デジタル戦略統括部 人材・総括グループ

Spark Xで、MUFGグループのマインドセットを改革

仲本さんが担当されている「Spark X」について教えてください。

Spark Xは2022年にスタートした、MUFGグループ横断で新規事業を創出するプログラムのことです。私はSpark Xの運営事務局にて、プログラム運営やプログラムで表彰されたチームの事業化フェーズ支援の運営を行っています。

※事業化に挑んでいるチームの詳細はこちら

簡単な流れとしては、まずMUFGグループ社員やチームから年1回で事業アイデアを募り、書類選考で数を絞ったのち、MUFGや外部協力企業による研修やメンタリング、具体化に向けたサポートなどを行います。そして、最終審査会でプレゼンテーションを行っていただき、最終的に事業化をめざすアイデアを決定する流れです。

Spark Xを始めることになった理由は何でしょうか。

発足時のメンバーがMUFGの社長である亀澤に「企業変革に向けた提言」をしたことをきっかけに、「予測不能な未来(X)に向けて、果敢に挑戦し、新しい時代をリードする火付け役(Spark)となる」という意味を込めてSpark Xが発足しました。

金融という環境においてはネット銀行の台頭などもあり、私たちとしてはライバルが増えてきている状況ですが、2021年5月に銀行法が改正され(同年11月に施行)、金融機関の業務領域を拡大することが可能になりました。

しかし、これまで金融に関する業務が中心だった私たちに、金融とは異なる新たな事業を生みだせるマインドセットがあるかは不確かでした。社員のカルチャー改革は重要な局面であり、ボトムアップで社員がSpark Xを通じて、既存領域に捉われない自由な発想と起案者のWill(やりたい、変えたいという意思)に取り組む場として始まりました。

2022年に初めてSpark Xを行ってみて、社員からの反響はいかがでしたか。

説明会もかなり行いましたし、「どんなアイデアでも良い」とハードルを低くして募集したこともあって、650件もの応募が集まり、想定以上に反響が良かったです。

しかし、書類選考で数を絞りすぎてしまい、応募アイデア1つ1つをそこまで深く見ることができませんでした。そこで2023年の2期目では、検証期間を長く設ける観点から、書類選考で絞る数にゆとりを持ち、二次審査で約3分間のピッチ(発表)を実施。そこで、書類では伝わりにくい熱量などを測りました。

検証期間を長くしたことで、1期目は約9カ月で完結していたプログラムが、2期目で約11カ月と、ほぼ1年かけて行うプログラムになりましたね。

審査基準は、熱量以外だと何がありますか。

書類選考では対象顧客が明確であるか、それに対するソリューションの大枠が決まっているかを見ています。

しかし、少々アイデアが荒くても、やはり書類選考や一次審査では熱量を大事にしています。事業化をめざすのはSpark Xの最終審査会で表彰されてからがスタートとなり、そこからはある程度の予算も付くほどのプロジェクトになりますので、「事業化に向けて走り抜ける熱量があるか」を予め審査ポイントに入れているのです。

最終審査会までに行われる研修などについて、詳しく教えてください。

二次審査後は、事業開発検証やプロトタイピングなどの研修を用意しています。通過者はそれらを受けたのち、個別のヒアリングやリサーチ、PoC(概念実証)などを、サポートや予算を受けつつも自分で行い、どうすれば本当に事業として成り立つのかを2カ月間ほど検証。最終審査会に向けてアイデアをブラッシュアップさせていきます。

もうすぐ事業化の案件も。銀行だからこそのバランスの良さ

最終審査会後の動きについて教えてください。

2022年の第1期の場合ですと、最終審査会で表彰されたアイデアは「働く妊婦の方を対象としたファッションサブスクリプションサービス」、「分譲マンションの第三者管理者ビジネス」、「MUFGのアセットを最大限に活かした美術作家の活動サポート」の3つでした。

第1期のSpark X最終審査会にて(2022年)

最終審査会で表彰された方は、事業化に専念してもらうため、私も所属しているMUFGデジタル戦略統括部に異動となります。そこで協力企業さまによるメンタリングや、週に1,2回の定例会議による他のチームを含めた進捗共有、事業のマネタイズ検証などを行いながら、事業化をめざしてもらっています。

事業責任者の方(最終審査会で表彰された方)は課題意識を持って、次にやるべきことを明確に考えながら、自由に行動している印象です。アイデアに賛同した方々で構成されているチームには、弊社が銀行ということもあり、M&Aや融資判断、事業ポートフォリオの策定などに携わった方やシステム領域に知見のある方もいますので、バランスの良いチームとして取り組めていると思います。

仲本さんは【第1回 高専起業家サミット】に参加されています。「事業化をめざす」ところがSpark Xと共通していますが、高専生はどのように映りましたか。

非常にレベルの高いピッチで、一社会人としてとても勉強になりました。高専生が抱える日ごろの悩みや、地域課題、環境課題など、身近なところをアイデアの起点にしているところに柔軟さを感じましたし、それに対するソリューションも実情に即している印象でした。4分間という限られた時間内でのプレゼン能力や熱量も大変高く、圧巻でしたね。

高専生の起業に三菱UFJ銀行が関わるとしたら、どんな取り組みが考えられますか。

具体的に動いているものがありませんので、あくまで個人的な考えですが、事業化をめざす際に必要なヒアリングやブラッシュアップの課程で、当行の持つ企業ネットワークを介して企業との連携・協業などを促進することはできるかもしれないと思います。

また、私たちは金融のプロですので、事業計画の策定や、金融の観点からのアイデア提供など、高専生にとってプラスの知見をご提供するお手伝いもできるのかなと思います。

Spark Xの今後の目標を教えてください。

2期目も合わせると事業化に向けて動いている案件が5件ありますので、まずは1件でも多く、シード期(起業前・事業化前に、商品やサービスを形づくる準備段階)と言われる3年間のうちに事業として成立させたいと思っています。ちなみに、1期目の3件のうち1件は、もう間もなくリリースできるといった状況です。そして、本当に事業として立ち上がることで、社員のみなさんのSpark Xへの期待をより一層高めていければと考えています。

また、2期目は1期目より20代の方からの応募が減っていたため、3期目は20代が起案リーダーのアイデアを優先的に通す枠を設ける予定です。このように、事業化の達成や枠の新設などを通して、グループ全体におけるSpark Xへの理解の促進につなげ、カルチャー改革をめざしていきたいと思っています。

イメージしにくい「銀行のIT部門の仕事」について

取材させていただいた方

藤尾 拓也さん

所属
グローバルIT部 アジアシステム室(入社11年目、シンガポール駐在)
出身高専
沼津工業高等専門学校 機械工学科

金融×IT——海外での仕事について

高専卒業から三菱UFJ銀行に入行された経緯を教えてください。

高専生の頃は就職するイメージが湧かなかったこと、そして東京への憧れがあったことから、東京の国立大学に3年次編入しました。

実際に東京に行くと多種多様な人たちがいて「自分は世界を知らない」ことを実感しましたね。大学の2年間では全然物足りず、一層専門分野を深めたいという考えも強くなり、大学院に進学することを決断しました。大学・大学院では、企業との共同研究にて、実験で得たデータを解析するプログラムを作ったり、それを活用して将来のシミュレーションをするなどが研究内容の中心でした。

その後、就職活動をするにあたっては、将来性が大きい産業としてIT業界に目を向けました。IT業界で働くとなると、大きく分けて「ユーザー企業」「ベンダー企業」「SIer」の3つがありますが、「自分の会社を大きくするために、自分の知識を使っていきたい」という思いから、「ユーザー企業」を視野に入れます。

また、SIerが金融の世界に大きく入り込んでいることを業界研究で知り、金融で大きなものをつくり上げるダイナミックさに非常に魅力を感じたので、ユーザー企業の中でも「銀行のIT部門」で働くことを決意。その中でも当行をめざしたのは海外にも強い銀行だったからですが、現在はシンガポール駐在ですので、当時の目標を達成していることになりますね。

シンガポールの観光名所、マーライオン公園(実は背景のビル群の中にMUFGのロゴマークがあります)

シンガポールでは、どのような仕事をしていますか。

アジア全域の各支店の行員を対象とした金融IT企画の施策立案をしています。最近のホットトピックとして、IT業界ではユーザエクスペリエンスと呼ばれる施策が挙げられます。

分かりやすい例としては、ITによるペーパーレス化が挙げられるでしょうか。もちろんエコフレンドリーの目的もありますが、これにより多くの行員が働き方として在宅ワークを選択することができるようになりました。ただ、ペーパーレス化は少し古い例でして、現在はAIなどの新しいテクノロジーを銀行ビジネスにどのように当てはめて、より良い業務にしていくかといった施策に注力しています。

現在進めているものとしては、銀行が持つお客様の年齢や資産内容、融資金額、お金の流れなどといった情報を集め、AIでその傾向を見出すことで、商品提案やビジネスモデルの構築につなげるなどといったことが挙げられます。

また、銀行はお客様の重要な情報を管理しお守りする必要がありますので、良くも悪くも手続きがたくさんあるのですが、AIを活用することで各人が個々で手続きを調べる必要がなくなり、本来の業務に集中できるようになることも期待しています。

アジア全域を対象としているからこその難しさはありますか。

シンガポールは多民族国家ですし、そのほかのアジアの国々もそれぞれ宗教や政治状況などが異なりますので、本音ではアジア全域でシステム・手続きの共通化を図りたい反面、それぞれの国に合わせた立案をしないといけません。情報規制が厳しい国もあるため、その規制をなんとかクリアしながらシステム等をリリースしています。

特にインドネシアの規制は厳しかったです。投資金額が数十億円という大規模プロジェクトの基盤リーダーに当時5年目の私がアサインされていたこともあり、同国の支店へのシステム導入は難しい案件でした。そのときの私はシンガポール駐在ではなく、日本の開発現場で基盤エリア(ハードウェア・OS・MW・セキュリティ等)の設計開発に携わっていた時期です。

結果、インドネシア国内のお客様情報を国外に持ち出すことはできないということで、データセンターやサーバーなどをクラウドではなく現地に置く必要が発生しました。私も現地に赴き、インドネシアの現地スタッフとともに、何もないところから設計・導入・設置などを実施。実際に支店でシステムが動き出したときは感動モノでした。

ということは、業務は英語で行われるのでしょうか。

当時インドネシアの案件を一緒にやっていたメンバーとシンガポールで再会

はい。シンガポールではもちろんのこと、日本にいるときも海外支店とやり取りする機会がありました。

恐らく多くの高専生と同様に、恥ずかしながら私も高専生のときは英語が苦手でして……。大学院生の頃から英語の必要性を感じて勉強を始めましたが、本格的に身に付いたのは当行で働くようになってからです。

当行には非常にしっかりした英語の研修プログラムがありましたし、海外支店との仕事を通したOJTなどで、自分のビジネス英語の能力が向上したと思っています。たとえ英語が得意ではなくても、若いころから希望すればチャレンジをさせてくれる環境が当行にはありますし、私自身、本当に感謝をしています。

高専で培われた主体性。自ら情報を取りに行くことの大切さ

高専生の中には、「銀行で働くこと」をイメージしにくい人もいらっしゃるかと思いますが、藤尾さんのように活躍されている場合があるんですね。

ただ、「銀行には国内外問わず、本当にたくさんの方々が活躍できる多様なフィールドがある」ということは言っておかないといけません。決して私のような海外で働く事例だけではないんです。IT・デジタル領域だけでも、AI・データサイエンスに代表される新領域の施策立案・導入や、数時間止まっただけで大きなニュースになってしまうコアバンキングシステムの開発・運用、トレーダー向けシステムの開発など多岐にわたります。

そして、私のようにそれらの業務にいろいろ取り組む方以外にも、どれか1つに特化して専門性を究めるキャリアを歩む方もいるんです。2024年4月から資格「Ex」が導入され、特定領域でスペシャリストをめざすことも可能となりました。

シンガポールのオフィス

また、自身のキャリアプランを聞いてくれる社内環境ですから、ミスマッチも起きにくいと思います。かつての銀行にはあったタテ社会の文化もなくなり、役職に関わらない活発なコミュニケーションが行われています。若手でも大きなプロジェクトにアサインされて責任感のある仕事ができるようにもなっていますし、その成果によっては若いうちから昇格することも可能です。

高専で培ったものが、仕事で生きたことはありましたか。

高専時代に学んだプログラミング言語の知識は業務に生きていますが、1番取り上げたいのは「自ら考え動くという主体性」です。業務遂行においてはカバーしなければいけないその他の専門エリアも多くありますので、自ら情報を取りに行ったり学んだりしないといけません。

例えば、先ほどお話しした英語の研修プログラム以外にも、積極的に行内の研修プログラムには手を挙げるようにしていますし、それでは物足りない場合、カンファレンスやフォーラムなどに出席して学んだり、そこで知り合った方々と情報交換をしたりと、積極的に行っていました。

高専は大自然に解き放たれつつも、留年があり得る厳しい世界です。自らが動かない限り誰も助けてくれませんから、ちょっとしたことでも自分から情報を取りに行っていましたね。その姿勢が今に生きていると思います。

最後に、高専生へのメッセージをお願いします。

高専での学びは一生の財産です。知識・経験・友人——社会に出てからはいずれも自分を助けてくれます。高専生という自信とプライドをもって就職活動を頑張ってください。高専生に対しては「何かをやってくれる」という強い期待感がありますので、多くの会社さんがみなさんを求めています。就職において心配することはありません。

一方で、高専という枠組みであるがゆえに、なかなか社会の仕組み・枠組みが見えず、就職活動自体には不安があるかもしれません。しかし、高専プラスのようなサイトを活用するなど、いろいろと会社を見てみることで、新たな発見があるはずです。恐らくほぼ全員が今回お話ししたような銀行×IT・デジタルといった業種があることを知らないのではと思います。

当の自分は、恥ずかしながら大都会東京でかっこよくスーツを着こなし、バリバリ仕事をする自分をイメージして就職活動をしていました。きっかけなんてそんなもので良いのです。就職活動が終わったら、残り短い期間ですがやり残しがないように、精一杯学生生活を楽しんでください!

特集コンテンツ一覧へ戻る

このインタビューは『第1回高専起業家サミット』
プラチナスポンサーの提供でお届けします。

高専起業家サミットとは?

高専生の積極的な起業を応援するべく、高専機構と月刊高専が主体となりスタートした『高専スタートアップ支援プロジェクト』の取組の一環として企画されたイベントです。
2024年3月11日に第1回を開催。全国の高専からエントリーした中より選ばれた60チームが一堂に会し、ビジネスプランの発表と交流会を行いました。
高専スタートアップ支援プロジェクトは、今後も中長期的に高専起業家をサポートできるプラットフォームづくりを目指し、活動を続けていきます。

高専起業家サミット公式サイト